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Leakage current in electronics parts

積層セラミックキャパシタ(MLCC)のような絶縁体の両側を金属で挟んだ三層構造の電子部品は劣化すると直流の電圧印加に対して本来流れてはいけないところにわずかですが電流が流れるようになります。この電流をリーク電流または漏れ電流といい、水道の蛇口が古くなるとハンドルを締めても止水できずに水が漏れる様子によく似ています。リーク電流は印加電圧に比例して増加する場合とそうでない場合があります。前者は金属などの導体が電極間を短絡することによって起こります。一方、後者は金属酸化物である絶縁体の中を電子が複雑なメカニズムで移動しており、これまでの技術では劣化のメカニズムを明らかにすることは難しいとされてきました。これらのリーク電流は消費電力の増加や発熱などの問題を引き起こします。そしてデバイスの性能を大きく低下させるので、開発、製造工程では重要な管理項目の一つになります。

Leak current conduction mechanism

印加電圧とリーク電流が比例関係にならない場合の電子の流れはMLCCを例にとると次の動画のようになります。動画の上のグラフはバルク内部の電位分布です。電子の流れは次のようになります。負極界面では電界集中により金属表面の自由電子が引き剥がされ、空乏層をすり抜けて空乏層より内側へと放出されます。そして電子濃度依存の拡散により絶縁体の中をホッピング伝導やトンネル伝導などのメカニズムで正極に到達します。これがリーク電流のメカニズムです。動画が表示されない場合はここをクリックしてください。

Interface physical property obtained by "Interface physical property evaluation"

 例えばMLCCに電圧を印加して電流がほぼ一定になったときをリーク電流として読み取ります。このデータを使って電子の電界放出に関する理論式から逆問題を解きます。さらに界面物性の情報が得られるとバルク内部の情報は電子の拡散方程式から明らかにすることができます。得られる情報は次の通りです。注目すべきは電流測定をおこなうだけなので、非破壊検査の一つといえます。また、これまでに誰も成し得なかった手法でもあります。
・仕事関数 Work function (ΦM)ショットキー障壁高さ Schottky barrier height (SBH)
・負極から電子が放出される面積 Area where electrons are emitted from the negative electrode (A)
・電子が放出される絶縁体表面の電界強度 Electric field strength on the surface of the insulator where electrons are emitted (F0)
・電子が放出される絶縁体表面近傍のドナー濃度(Donor concentration near the surface of the insulator where electrons are emitted (ND)
・電子が放出される絶縁体の空乏層幅 Depletion layer width of the insulator where electrons are emitted (wdep)
・空乏層を除いた絶縁体内部における電子の拡散係数
・移動度(lectron diffusion coefficient (De) and mobility (μ) inside the insulator excluding the depletion layer )
・絶縁体内部の電位分布 Potential distribution inside the insulator
・ドナー原子の格子定数 Lattice constant of donor atom
などの情報から劣化の状況が把握できるので工程の見直しや設計の見直しが可能となります。電子部品の故障解析技術としてこれまでにない有効な手段の一つとなります。そしてこの手法はMLCC以外にも多くの電子部品などに対応できると考えています。高温化のリーク電流からこのソフトウエアを用いてスクリーニングすれば故障することはなくなるでしょう。

CDCTS(Charge and Discharge Current Transient Spectroscopy)

電圧を印加した直後の電流応答や電圧印加して電流が流れなくなってから電圧を0Vまたは低い電圧にした直後の電流応答から電荷のピークの電荷量やピークの時間を求めることができます。良品と不良品の波形を比べると本来とは異なるピークに着目すれば電荷の移動メカニズムや電荷の正体を推測するのに有効な手段となります。さらに電圧を段階的に上げて各段階での電流応答を解析することにより、移動を開始する電圧を知ることができます。この手法は大阪電気通信大学の松浦秀治教授が開発されたもので2007年頃ソフトをお借りしてしばらく使っていました。最近になって先生の文献を参考にしてソフトを制作しました。

Difference from conventional technology

 図Aに示すように従来技術は サンプルの リーク電流や電気特性などを測定して故障の程度を推測します。そして故障箇所に見つけようと様々なアプローチをとります。最後に機械的に開封して劣化箇所を特定して劣化の原因を推測します。これには多くのコストが発生します。また電子部品の小型化、微細化に伴い劣化箇所を検出しにくく、従来の評価では劣化の原因を推測するのは難しいのが現状です。これに対して図Bに示すのは画期的な新しい技術です。リーク電流や電流応答を読み取り、提供するソフトで計算するだで電子部品内部の劣化状況を明らかにすることができます。これは従来技術に比べて大幅なコスト削減となります。 また良品の将来故障に至る危険性を推定する手法である「良品解析」への応用も可能です。

Good qualiity analysis

 電子部品はスクリーニング工程で選別されて出荷されますが、近年耐久性の面で信頼性を高めるために良品解析が実施されます。これより故障に繁がる原因の排除が可能となります。一例として部品の加速試験などをおこなって意図的に故障に至らしめ劣化の原因を明らかにし、工程の改善に反映させることができます。しかし時間と労力と高価な装置を要するこの良品解析は何度も繰り返さなければならないので多額の費用が発生することになります。
 そこで提案したいのは界面物性評価を加速試験の条件下でおこなう方法で何が起こっているかを明らかにできます。また短時間で劣化の原因を明らかにして工程の改善に反映できますので、従来の手法のような問題は解消できます。また良品解析以外の用途として故障すると重大な事故につながるような場合には信頼性の高い部品を用いなければならないのですが、信頼性を担保するために界面物性評価手法を用いることによって将来故障しない部品を得ることができます。